:: 読者の皆様へ ::



2010年5月、北海道立北方民族博物館にて「保苅実写真展:カントリーに呼ばれて オーストラリア・アボリジニとラディカル・オーラル・ヒストリー」開催中、偶然、ある地方新聞の連載小説の中に、「ラディカル」のテキストと酷似した表現を見つけたという連絡が入りました。この章は5月11日から始まっていましたので、5月25日付けで、新聞社に「表現の類似」についての問い合わせを入れました。

この小説に登場するアボリジニの老人の名前が、保苅実の恩師である「ジミー・マンガヤリ」に酷似しているだけでなく、アボリジニの人々にとっての「カントリーが巨大な家」であるというような、「ラディカル」で展開された保苅実の分析・表現の数々が、微妙に変えられて小説の中で使われていました。「保苅実とつながる会」が独自に比較検討したところ、類似表現は15箇所以上に及びました。

ノン・フィクションからフィクションへの借用は多く、研究者が泣き寝入りするケースが多いという話は聞いておりましたが、一字一句が完全に援用された「盗用」ではなく、著作権侵害と断定することには些かの躊躇が伴います。

新聞連載小説という性質上、連載が終了するまでは参考文献の掲載はされない状態が続くことに加え、新聞社からも一切の回答が来なかったため、「ラディカル」に対して好意的な書評を書いたこの小説家が、「ラディカル」を参考文献に載せる意志があるのかを確認するために、保苅実の遺族から連載小説の掲載を管理している新聞三社連合と小説家の関係団体宛に、「参考文献としての記載」を求める要望書を送付しました。

その結果、双方から、参考文献としての記載は、当初から単行本出版時に予定していること、また、連載終了後に、新聞紙上に掲載される著者の「連載を終えて」というエッセーの中で、またウェブサイトにも、その他の文献と共に、参考文献として掲載する、との回答をいただきました。結果として、連載終了の際の著者のエッセーの中で言及されることはありませんでしたが、連載の最終回に数々の参考文献の中の一冊として「ラディカル」が挙げられるにとどまりました。

著作権侵害であるか否かの問題はさて措き、むしろこの問題は、倫理上あるいは道義上の問題と言えるのではないでしょうか。

保苅実は、「ラディカル」の原稿をあげて数日後に息をひきとりました。「ラディカル」の中で展開されている彼の理論・分析は、オーストラリアの白人、日本や世界の人々に対し、グリンジの歴史を広く伝えていってもらえると信じていたからこそ、ジミーじいさんを始め、グリンジの長老たちが保苅実に語ったものを元にしています。

保苅実を通じて、そして彼の著作「ラディカル」を通じて、グリンジの人々が終始一貫訴えていることは、「なぜ、白人はわれわれの土地に住む許可を得ようとしなかったのか。許可さえ求めてくれたなら、われわれは『友よ、一緒に暮らそう』と答えただろうに」の一点です。「ラディカル」を自身の書評で絶賛したこの小説家が、このグリンジの人々の主張を自身のレベルで消化していたならば、事前に、遺族に対して一言連絡すべきだということは明白でした。そして、「ラディカルを参考文献として、このような表現を使いたいと思いますが」と事前に申し出てくれていたら、アボリジニの人と同様に、私たちは「喜んで」とお答えしたでしょうに。

どれだけ多くの研究者をコミュニティに受け入れても、研究成果はすべてキャンベラでとどまり、コミュニティに戻ってこないと嘆いたグリンジの人々に対し、保苅実は研究成果をすべてダグラグに提出することを約束した契約まで結んでいます。また、儀式の秘密性を尊重してくれるという信頼のもとに儀式に参加させてもらった多くの研究者達が、その約束を破って内容や写真を平気で公開することに対して、彼は怒りをあらわにしていました。また、「ラディカル」の元になっている博士論文の提出前に、コミュニティを再度訪れ、長老をはじめ人々の許可を得たことは、「ラディカル」に記述されています。

これまでにも、雑誌「風の旅人」から「ラディカル」の第二章の転載許可を求められ、オーストラリアの研究者からアボリジニ史研究における保苅実の貢献について論文を書きたいという申し出を事前に受けました。そのいずれに対しても、私たちは誠意に対応してきました。小説というフィクションでも学術書というノン・フィクションでも、創作・研究活動に従事する相手に対して、そして相手が生み出した作品に対して、敬意を表するということはそういうことです。違法でなければ「許可」をとる必要はないと、事前に何の連絡をする必要もないという判断は、倫理的でも道義的でもなく、若くして亡くなった保苅実という一研究者への、保苅実の研究をその死後もできるだけ大勢の人に伝えようとしている遺族への敬意を、十分に示しているものでもありません。

こういう経緯を経て、ここに、保苅実の著作物、「保苅実とつながる会」による出版物、本ウェブサイト内のすべてのテキストと画像・映像を、事前許可なく、複製・転載・翻案する行為を一切禁じると宣言するに至りましたこと、ご理解いただきたいと思います。

保苅実の著作物を許可なしに利用することは、その目的が何であれ、グリンジの人々の、アボリジニの人々の歴史財産を無断で利用することと同じです。

2012年1月
保苅由紀
保苅実とつながる会

注:「ラディカル」の出版元である御茶の水書房は、この件に一切関わっていません。