第七回:アボリジニ絵画への招待
: 掲載コラム(2003.07.29)
アボリジニ絵画をご存知だろうか。世界的なアボリジニ・アーティストになると、一つの作品に数千万円の値がつくこともあるという。投資目的でアボリジニ絵画を買う人がいるという話を聞くと、なんだか少し残念な気もするが、貧困に苦しむ先住民社会の経済援助になるなら、文句を言うべきではないのかもしれない。新潟でも、現在松之山にある「森の学校」キョロロで、アボリジニ美術展を開催している(九月上旬まで)。足を運んでみてはいかがだろう。
アボリジニ絵画は、大きく二種類ある。ひとつは、オーストラリア北部沿岸地域で描かれている樹皮画(バーク・ペインティング)。木の幹から樹皮を剥ぎとって平らにし、そこに人間や動物、あるいは精霊などの図柄を描きこむ。もう一つは、中央砂漠地域のアボリジニの人々が描く点描画(ドット・ペインティング)。こちらは、キャンバス一面に色彩豊かな点と線を打ち込む。抽象的な模様なので、ちょっと見ただけでは何が描かれているのか分からない。かれらに尋ねると、たいていは、「これが私のカントリーだ」という答えが返ってくる。樹皮画の場合も点描画の場合も、そこにはさまざまな物語が描きこまれている。聖なる歴史の場合もあるし、狩の様子といった日々の暮らしの場合もある。
樹皮画の原型は、世界最古ともいわれているアボリジニ岩画(ロック・ペインティング)にある。アボリジニ岩画はオーストラリア各地の洞窟や岩面に残っているが、ノーザン・テリトリー準州北部地域は、幾重にも重ね描かれた豊富な岩画群が多数残っている。ダーウィンから日帰りツアーで行けるカカドゥ国立公園をぜひ訪れてみてほしい。数万年という年月をかけて重ね塗られていった岩画の数々を見て、日本から来た僕の友人は、「こうやって魂を重ね合わせていったのかもしれない」とつぶやいた。
一方、点描画の原型は、儀式の最中に砂上に描かれる模様である。秘密の知識がそのまま公表されてはいけないので、こうした模様を一般向けに修正したものがキャンバスに描かれている。カンディンスキーやモネを連想させるこの幾何学的な点描の配置は、じつに謎めいている。そこには、世界の秘密が間接的に描きこまれているはずだ。カンガルーやゴアナやヘビなどの霊的祖先が、世界を創造してゆく物語、一般に「ドリーミング」と呼ばれているアボリジニの神話世界の一端を、こうした絵画に垣間見ることができる。
アボリジニ絵画をみていると、僕はなぜかジャズ音楽を連想してしまう。そういえばジャズの巨匠ジョン・コルトレーンは、きわめてスピリチュアルな音楽家だった。アボリジニ絵画には、伝統に深く根ざした形式がもたらす高度な精神性と、そんな形式をもろともしない奔放な自由さが見事に共存している。自分の魂と地続きの大地、そこに暮らす動植物や精霊たち。大地から溢れ出す生命の躍動が、キャンパスにも流れ出ている。今度コルトレーンの名盤「至上の愛」を聴きながら、アボリジニ絵画を鑑賞してみよう。
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