豪・ニューサウスウェールズ大学・インターナショナル・ハウス
保苅実記念奨学金制度

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保苅実とインターナショナルハウス



「世界に違いをもたらしたい」という願いを胸に、保苅実氏(Ph.D. ANU)は、その短い生涯の中で、数多くの人々に計り知れない感動をもたらしました。

1971年7月8日、保苅は日本北部の新潟の海岸沿いの小さな町に生まれました。小学校までは内気で照れ屋な子供でしたが、やがて勉強の魅力を感じるようになり、学校に行くのが楽しくなるにつれ、次第に性格も明るくオープンになりました。またその誠実で頼りがいのある人柄に、級友や教員も惹かれていき、中学、高校時代には生徒会長として活躍するに至ります。

一橋大学に進学後、経済学、人類学及び歴史学を専攻、学士号に続き修士号も同大で取得しました。彼が最も興味を持ったのが歴史で、次第にオーストラリア先住民のアボリジニ、特に彼らの歴史と文化に強い興味を持つようになります。一橋大学でアボリジニ史を学ぶにつれ、彼はいつの日かこのオーストラリア先住民達と共に暮らしたいと願うようになりました。そして、この夢を実現するために、彼はロータリー国際親善奨学金を含む複数の著名な奨学金を取りオーストラリアに向かったのです。オーストラリアでは、ニューサウスウェールズ大学歴史学部の博士課程で学び、またフィールドワークの一環として、ノーザン・テリトリーのグリンジ・カントリーにあるダグラグ村でグリンジの人々と一緒に生活しました。

1997年に寮生としてインターナショナル・ハウスに入居した彼は、数多くの人とめぐり逢い、深い交流と実りある友情を育んでいきました。その活気に満ちた性格と人柄は周りの人々をたちまち魅了し、すぐに様々な国から来た仲間達と固い友情を築き上げていきました。殊に、先住民グリンジとともに暮らすという、風変わりながらも積極的な姿勢は寮生達の興味をさらい、皆、彼の人生観、政治、経済に関する見解、そして旅の土産話に夢中で耳を傾けました。

インターナショナル・ハウスは、まさに彼の探求の旅のベースキャンプでした。ここから旅立ち、学び、そして戻ってきては旅の経験を分析し、書きとめ、また旅立つ。そして彼が久しぶりにインターナショナル・ハウスに舞い戻ってきたという知らせを聞けば、寮生達は土産話を聞きに彼の部屋へ訪れました。またジャズが好きだった彼の部屋には、同じくジャズ好きの「常連」が何人か集っているというのが常でした。

忙しいながらも、寮生活にも積極的に貢献しました。寮対抗戦でバレーボールの選手として出場したのも、その一例です。また、一息入れようと休憩室に座っていても、いつの間にか歴史や政治のあり方といった奥深い会話をしてしまうほど、知的探究心が旺盛な人柄でした。こうして、寮生達との知的な会話と心の交流を日々楽しんでいたのです。

1999年、彼の指導教員がオーストラリア国立大学へ移籍することになり、彼女について彼も転籍しましたが、キャンベラで学業に励む間にも、しばしばシドニーへ戻り、インターナショナル・ハウスの友人達を訪ねました。そして2001年、ついに博士論文 "Cross-Culturalizing History: Journey to the Gurindji Way of Historical Practice" を完成させるに至りました。

その後、彼は学術分野で活躍し始め、慶應義塾大学、一橋大学などの日本の著名大学や、オーストラリア国立大学、ニューサウスウェールズ大学などで教鞭をとりました。また、日本学術振興会特別研究員、オーストラリア国立大学太平洋アジア研究所客員研究員、オーストラリア国立大学人文科学研究センター客員研究員でもありました。

そんな最中、2003年7月に彼は悪性リンパ腫(リンパ球のがん)を宣告されます。癌と闘った十ヶ月の間、彼は常に冷静さを失うことなく前向きで勇敢でした。しかし2004月5月10日、保苅実は32歳の若さでこの世を去ることになりました。

死後間もない2004年9月、彼が苦しい闘病生活の中で書き綴った初めての著作、「ラディカル・オーラル・ヒストリー:オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践」(御茶ノ水書房) が日本で出版されました。

誠実で情熱的、それでいて冒険心に溢れた一生。短い人生ではありましたが、無数の人々に感動を与えた大きな一生でもありました。彼は、インターナショナル・ハウスが目指す友情、異文化の理解、寛容さを、短くも深い人生をもって実践したのです。彼の生涯は、まさにインターナショナル・ハウスが長年理想として抱き続けてきた価値観を具現化したものなのです。

* この文章は、保苅実の友人であるDonald Jennerが書いたものです。



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