:: 二つの「保苅実記念奨学基金」 ::
豪・ニューサウスウェールズ大学・インターナショナル・ハウス
保苅実記念奨学金制度



1.奨学金制度詳細 (PDFパンフレット・イメージ: 

2.保苅 実とインターナショナルハウス (PDFパンフレット・イメージ: 

3.寄付申込書

4.送金方法 * 日本在住の方のみ対象

5.米国在住者向け、税法上優遇措置について
*** US$500以上の寄付のみ対象

6.姉・由紀からのメッセージ(2004年11月13日 第一回記念奨学金授与式での挨拶から)


はじめまして、保苅実の姉、由紀と申します。弟は10ヶ月間がんと共存し、今年5月に永眠いたしました。普通は「がんと闘った」と表現するのでしょうが、私には彼はがんと共存しようとし、化学療法と闘ったように思えます。今回このすばらしい機会に皆様にご挨拶する機会をいただきましたこと、心より御礼申し上げます。

DonaldとDr. Lundyからこの記念奨学金のことを知らされた時、私は彼の短くも充実していた人生にとってこれほどふさわしい話はないと感じました。皆さんがおっしゃるように、彼の人生は真にインターナショナルハウスの理念を実現したものでした。

私の弟は、学士号と修士号を東京の一橋大学で修得し、1996年にオーストラリア先住民アボリジニの文化と歴史を学びにこの国に来ました。彼はまずこのニューサウスウェールズ大学に在籍し、インターナショナルハウスで暮らしたのですが、彼の博士論文指導教官がオーストラリア国立大学に移籍したのに伴って、2001年そちらで博士号を修得しました。

悪性リンパ腫、リンパ球のがんと診断された昨年7月以来、私は彼の友人からたくさんのメールを受け取りましたが、その多くはインターナショナルハウス時代の友人からであることに気づきました。皆さんそれぞれ既に母国にお戻りのようですが、実の思い出を私に語ってくださり、また、たくさんの愛情と友情で彼を支えてくださいました。

私は10年ほどアメリカに暮らしており、現在アメリカ人の夫と3歳になる息子がいます。一橋大学の教授は、私の影響で彼が外国で勉強する決意をしたのだろうとおっしゃってました。実が英語に苦労していると私にこぼしたことがあり、自分の経験から私はできるだけたくさんの映画を見、彼の拙い英語に辛抱強くそして親切に接してくれる友人を探し、とにかく最初の1年だけはどんなに辛くても決してあきらめないようにアドバイスした記憶があります。外国で暮らすというのは大変なことです。が、当初の困難を乗り越えることができれば、自身の世界と可能性は無限に広がります。それを、私は自分の経験から知っており、弟はそれを見事に達成したと思います。

今日は、一つのエピソードを皆さんにお話したいと思います。これはより良き人間関係を築くための実の小さな秘密だと私は信じています。私は実と違って、よく腹を立てる人間なのですが、夫や義理の家族、私自身の両親とのいさかいを実に愚痴ることがよくありました。私にしてみれば、弟に味方してもらいたいから、愚痴っているのですが、彼はいつもこう言いました。

「由紀ちゃん、僕は由紀ちゃんの気持ちもわかるけど、相手の気持ちもわかるよ。相手にも問題はあるけど、由紀ちゃんの側にだって問題はある。そこで、どうするか。まずは、由紀ちゃんの方が自分の側の問題を見つめた上でできることをやる。そして、相手にそれが伝われば相手も態度を変えるかもしれない。そしたら、二人の関係は良くなるよね。もちろん、もしかしたら相手は何も変わらないかもしれない。でも、少なくとも由紀ちゃんの方でできることはやったってことになるよね。」

そのたびに、私は「そんな聖人君子みたいなことができるか」「どうして私ばっかりが態度を改めなきゃいけないのか」と不貞腐れていました。実は、私達家族に対してとても厳しかったと思います。でも、それは自分の家族を説得できなければ、変えられなければ、友達や知人や世の中の人の理解を得ることなどできないと思っていたからではないか、と私は思います。

彼が亡くなってから、3度ほど相手との関係が危うくなるかのような大きなケンカをしました。怒鳴り散らした後で、深呼吸してどうしようかと考えた時、実の声が聞こえました。そして、彼だったら、どう考えるだろう、どう言うだろう、どう行動するだろう、と考えた時、どうすべきかが見えました。そして、その結果は全て良しと出たのです。

彼の私へのアドバイスは、より良き人間関係を築くための彼の基本的な理論と秘密だったと私は信じています。おそらく彼はこの秘密を様々な人間関係に適用したに違いありません。世界各国から来ている彼の友人、研究仲間、そしてもちろん彼のアボリジニの友人達に、です。また、彼はこの理論を、西洋学術的見地からの歴史的真実と、アボリジニの人々の立場から語られた彼らの歴史の間にあるギャップを埋めるためにも使ったに違いありません。彼が求めていたのは、「歴史的真実」ではなく、テッサ・モーリス=鈴木氏が提唱する「歴史に対する真摯さ」でした。

彼が生きているうちに、「みぃちゃん、貴方の言うとおりにしたらこんなにうまくいったよ、ありがとう。」と伝えることができたら、と思います。でも、こういう形で、実は私の中に生き続けるのだと気付きました。

私の両親と最愛なる弟に代わりまして、Dr. Robert Lundy、Donald Jenner、そして奨学基金委員会の皆様に、この基金設立を実現してくださったこと、心より御礼申し上げます。今日は、わざわざお集まりいただいて、本当にありがとうございました。

保苅由紀

*Special Thanks to Dr. Robert Lundy, Donald Jenner and the Scholarship Committie